**始まりは綿津見から――。**

 

朝の眩しい光が、カーテンを突き抜けて、あたしを直撃する。 ジリジリと暑くなって布団から出ると、なんとまぁオンボロな部屋のど真ん中だった。

あたしの名前は、鈴音。 春野鈴音、以後よろしく。

それはともかく、ボサボサの長い髪の毛をテキトーにまとめあげ、くしゃくしゃのパジャマをポイポイと投げていく。

こんなことするからよけーに部屋が汚れるのに。って言葉は聞かない。だってメンドーだもの。

引っ越し祝いで昨日、店主さん(ちっこかったケド)が、おにぎりを3つほど差入してくれた。・・・・・・・ん、何気にウマイ。少なくとも、自分で作るよりは確実に・・・、あ、ちょっとムカついてきた。

今日は引っ越してきて1日目。とりあえず、近所の人たちへ、挨拶がてら、出向きに行こうと思う。

おにぎりを平らげて投げていた服やスカートを取り、洗面所へと向かった。 あ、覗くなよ? 覗いたら大声で、スケベ!!って叫ぶからな。

 

ふぅ、着替えは完了。 さて、そろそろ行こっか。 あたしは玄関に向かう。

この後、何が起こるのか、分からないまま――・・・・・。

 

 自分の住む部屋から一歩出てみると、そこは意外と暗い、淡々とした薄暗い廊下だった。

コンクリートがむき出しってわけじゃないけど、どこか掃除とかされてないような雰囲気はするし、よくみると、天井には埃がもわ〜ん、と今にも降り落ちてきそうなほど、埃が堪っている。

おいおい、いちおー宿屋なら、掃除くらいちゃんとしろよな。と内心フッと笑う半分、呆れながら、隣の部屋の呼び鈴を鳴らす。

リ―――ン、と本当に鈴が1つ揺れるような音の呼び鈴だ。うわ、今時こんなのがあるのねーと関心しながら、もう一度鳴らす。

リ―――ン。 …ガチャガチャ、がっちゃこーーーん!!

扉のすぐ前くらいで、何か得体の知れない巨体なものが、どこかの何かに躓いたのであろうと思わせるような勢いで、扉へとぶつけた。(と思う自分。)

目をぱちくり、とさせた直後、ガチャ。と扉は開いた。

 

中から出てきたのは、赤髪で長髪、長身の、どこかのホストでもしてるんじゃないの?と思わせるような雰囲気を漂わせて、

それをかもし出しつつ、たったいま上がってきました。とでも見せ付けるような、大胆に上半身は何も着ず、ほかほかと温かそうな肌から立ち上る白い湯気。

「んぁ…? 誰…?」

そんな姿をこともあろうに女性の前に晒しておきながら、寝ぼけたような声をあげた。 この男、いつか覚えてろ。と少々プッチンとなってしまったことはヒミツ。

「えっと…、隣りに越してきました、春野鈴音って言います。 よろしくお願いします…ね?」

「隣りぃ…? あぁー……。…ん、よろしくな。 俺ぁ篤樹隆次(アツキ タカツグ)、この宿屋の1階左側にあるクラブでアルバイトホストをしてる。 いつかアソビに来いよ。」

ニッと軽く笑うと、んじゃな〜とひらひらと手を振り、パタリと扉はあっけなくも静かに閉まった。

いや、問題はそこじゃない。 アルバイトホストだとぉ!? しかもアソビに来いぃ!? 人をぜーったいにオコチャマだと思ってやがるな、あんにゃろぉ。

しかも、あんな…っ、あんなハレンチな姿を晒しておきながら、お前に恥じというものはないのか!

「あんにゃろぉ……、覚えてろ…っ!」

いつかシメる、と心に誓い、グッと強く拳を握り締めたあたしだった。

 

 

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