【花の顔は滑稽に笑う】−Haerts=Bloodmean−
「どうぞ、こちらに。」
「どうも。」
俺は東の国、通称「ハートの国」に出向いた。
東西南北と分かれ、「まあ、最初に行くなら東だろ。」と、なんとまあ軽々しい気持ちで、この地を踏んだのである。
「王女様にお会いになる前に、おめしかえを。」
「着替えるのか?」
「はい。 王女様は汚染物はお嫌いになりますので・・・、バスタブにお湯を入れておりますので、汗をお流しになったら再び、私たちをお呼び下さいませ。では。」
「はあ・・・・・・」
なんて手早いメイドさんだろうか。 と俺は思う。 しかしながら、それもこの国の長を努める人だけはあるか、と納得してしまう自分がいる。
バスケットへ服を投げ入れて、バスタブへ向かう。
「・・・・・・・」
驚いた。 まさか本当にあるなんて思ってもいなかったものが、そこへあった。
口から色鮮やかな色の・・・お湯だろうか。 が流れ出るマーライオン。 初めて見た俺は、「こんな風呂・・・・入るのも勿体ねえな。」と苦笑してしまう。
苦笑してしまいながらもお湯へ浸かると、鼻にスゥ―・・・・と入り込む、何かしらの花の匂いが漂ってきた。 さきほどのメイドさんにもう一度会ったら聞いてみようか。
よく身体を流してバスタブから上がり、バスタオルをサッと身体に巻く。 ふわふわ感がたまらなく、俺の肌を刺激した。
「すいませーん、上がりましたー。」
「では、こちらへお越し下さい。」
どこからか音もなく先ほどのメイドさんが、俺を付いて来るよう言う。
「なあ、さっきのバスタブのお湯から花の匂いがしたけど、アレって何の匂いだ?」
「あれは、我が国のお城の庭園でしか作れない、ブルーレベットの花の香りです。 青薔薇と似ていて、貴重花に認定されているものなんですよ。」
「へぇ〜。」
「王女様のお部屋にも飾ってありますので、どうぞお許しが出ましたら、ご覧になってください。」
「そーするぜ。」
長い長い廊下を、ひたすらに歩く。 長すぎるせいか、廊下の突き当たりの方は、真っ暗で見えない。
「ここでございます。 ・・・・・・王女様、お連れいたしました。・・・・お入り下さい。」
「え、あっああ・・・」
あれ、さっき長様のお声はした? まったく聞こえなかったんだが・・・。
そう心の内で思う間に、大きなチョコレート板のようにも見える扉が、片方開かれた。
ゴクリとつばを飲み込んで、俺は長様のお部屋へと招かれた。