【雪下のふりそで】

 

「たいちょ〜、寒くないですか〜・・・・っ!?」

「お前は服を乱しすぎなんだよ。寒かったらさっさと直せ。」

「え〜!?それはあたしのオトメごころが許しません〜っ!!」

「じゃあそのまま寝てろ! 給料を減らすだけだ。」

「隊長のケチ〜! いじわる〜!!」

今日も朝から十番隊は賑やかでうるさい時間が過ぎていく。 十番隊を率いているのは、まるで小学生とも言える外見の、銀髪少年。日番谷冬獅郎である。

そんな日番谷を支えるのは、護廷十三隊一のおねーさま、松本乱菊。 副隊長を務めているが、ほとんどが隊長の日番谷にまかせっきり。

それに今は冬。 尸魂界に白い花が散り落ちていく季節だ。 冬が苦手な乱菊ねーさまは、冬が得意の日番谷に仕事のほとんどを推し任せ、お酒を飲んではソファでごろり。

「・・・・隊長、今日は『あの子』のトコ。行かないんですか?」

「・・なんだ、突然。」

乱菊ねーさまの言う『あの子』とは、最近雪が積もる中、日番谷が1人で瀞霊廷を散歩していた時に出会った子のことである。

 

「・・・・っち・・・、さびぃ・・・」

白いマフラーが雪を混ぜた風に煽られ、日番谷の首元を曝け出す。ブルッと身震いしながらマフラーをもう一度かけ直し、隊舎へ戻ろうとしたときだった。

「へっくち・・・・・ふぅ・・・・、・・さむいよぉ・・・・・・」

どこからか、小さい子が震えているような声が日番谷の耳に入ってきた。くるり、と辺りを一目したが、どこにも人の気配はしない。 幻聴かと思い、帰ろうとしたときだ。

「・・・!」

目の前に聳え立つ大きな桜の木の下に、捨てられた猫のように蹲る少女がいた。黒く長いストレートの髪の毛に、桜木から溶けて落ちる雪が直接あたり、より一層雰囲気を作り出している。

「おい、てめぇ・・・見ねぇ顔だな。・・・何番隊だ?」 例えどんなに小さくても、敵かもしれない。警戒心を解かず、問いただした日番谷の顔を、蹲っていた少女は見上げた。

「・・・・だぁれ・・・おにーちゃん・・・?・・・何番って・・何のこと・・・?」空ろな目が、日番谷の顔を瞳に映す。が・・・・。

「・・・! お前・・・、片目が・・っ!」

日番谷の驚き顔など気にした様子でもなく、少女は「ホローにとられたの・・・。痛かったの・・・・・。」と微かに動く唇で言う。

「とりあえず・・・、四番隊に向かうか。 歩けるか、お前。」

「足・・・・折れてて立てないよ・・? 折られたもの・・・・・」 「はぁ・・・・!?」 信じられなかった。 この子には、そんな痛みに耐えられるほどの力と生命力があると言うのだろうか。 今にもバッタリと逝きそうな少女に?

「おぶってやるから、手ぇ出せ。」 「・・・・うん。」 白く細い腕を、日番谷に向かって少女は伸ばした。 少女の爪は伸びきり、爪先は尖っていて本物のネコのよう。 そんなことを思いつつ、細い腕をそっと握って、自分の背中へと身体を預けさせる。

「・・・落ちねぇように、つかまっとけ。」 「・・・・うん。」 コクリ、と小さく頷いて、小さな掌を日番谷の肩にそえる。 少女の長いまつげが肩に当たる感触を感じて、日番谷は初めて、少女が眠ったと気づいたのだった。

 

四番隊救護詰所――

「日番谷隊長、珍しいですね。・・・あら、その子は?」

「卯の花隊長・・・・。すみません、話は後で・・・、こいつの容態、見てもらえますか?」

「ええ、構いません。 勇音、応急処置の準備を。」

「はっハイ!卯の花隊長!」

日番谷の背中で眠る少女を、少し怪しむ目で見た卯の花隊長だったが、日番谷の焦りっぷりでその気も削がれたようで、すんなりと治療をしてくれた。

 

1時間後――

治療を終えた卯の花隊長に、彼女の容態を聞くと、「もう大丈夫です。あとはゆっくり休ませて上げましょう。」と言われ、四番隊の隊首室に呼ばれた日番谷の目は、安心したように柔らかくなった。

「それで、あの子は一体・・・。」

「お話します。」

日番谷は、関わること全てにおいて、卯の花隊長に話した。散歩をしていた途中に聞こえた声のことも。 桜木に蹲っていた姿のことも。全て。

話している途中で、片目が無くなっていた、と話すと、卯の花隊長はとても驚いた顔をした。虚に取られたのなら、そのまま魂ごと食べられてしまうのが普通だから、と言っていた。

少女の片目には濃い目の桃色で作られた眼帯が付けられ、あまりにもボロボロすぎる布キレのような服は、群青色と紫を使って作られた振袖に取り替えられた。

「これでいいですね。」

「はい、とっても可愛くなりました。」

「卯の花隊長、忙しい中、治療してくださりありがとうございました。」

「いえ、いいですよ。 彼女が目を覚ましたら、勇音に連れて行かせますから。」

「はい。」

 

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